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A Book: バルセローナにて

バルセローナにてそもそもヨーロッパ史は単純ではない。中高生に教えるいささか単純化された歴史は、それをよく知っている人にはよくまとまっていると思えても、恐らくは、学ぶ側から見れば単純化され過ぎて意味不明なところが多いだろうと思う。重要な事件は書かれても、その事件がおきた背景はひとことだったりする。曰く、「重税に不満をもった群衆が蜂起し王は幽閉された」の類である。そこには重税の背景も他国の侵攻も書かれない。10行前に隣国の貿易による台頭は経済状況として触れられているし、直接の原因ではないからだろう。残念なことに、多くの中高生にとっては、その事に気付くのはずっと後になってからだ。テレビのクイズ番組で見たとか、旅行の予定があるので少し調べたとか、何かのきっかけで興味をもったことで歴史の意外な背景を知るといった類である。

ヨーロッパ史にはなかなか理解が難しい部分がいくつもあるが、広範囲におよぶローマ史などよりも、スペイン史やハプスブルク家にまつわる歴史のほうが、ずっと難解だと感じている。例えば、必ず教科書に出てくる神聖ローマ帝国皇帝カール5世(Karl V.)がカスティーリャ女王フアナの子であったり、スペイン史にイスラム文化やケルト文化が登場したりすると、地理的な知識と混じってわけがわからなくなるのもうなずける。スペイン史と「幸いなるオーストリアよ、何時は結婚せよ。」は、そう簡単には結びつかない。

その上、観光ガイドはこう告げる。「スペインはスイスならぶ山岳国家である」と。まぁ、確かにそうだろうなと思わないこともない。フランス国境に横たわり、スペインをむしろアフリカと結びつけたがるピレネー山脈は、雪を頂く厳しい環境である。時にツール・ド・フランスの山場のひとつとなる。実家がピレネー近くという知人が言うには、谷間の村がとても綺麗でバカンスを過ごすには良いところだそうだ。

そんな背景を知って最初の「アンドリン村にて」を読み始めると、その厳しい自然描写とお節介だったり一風変わっていたりする人々の様子とが、鮮やかにイメージされてくる。雨と霧が覆う山岳地域は夏でも急激に気温が下がり、一方でアンダルシアでは40度の熱風が大地を覆う。思いのほか多民族であるスペインの小さな村は、美しくも微かな影を抱く。そこに住んでみたいという堀田善衛の想いは、読者をも同じ気持ちへと誘う鮮やかさである。

そうして作家に誘われ、小さな村のささやかなスペイン滞在を楽しみながら、読者はそこに暮らす人々と交流し、時に戦争の惨禍を思い描き、時間をも超えて行く。次の街はグラナダである。いや、正しくはグラナダなどではない。もっと大きな光と影と言うべきである。そう気がついた時、読者は完全に堀田善衛の見る世界の中にいる。

これ以上はここに記載すべきではない。もし、まだ未読なら自分で読んで感じなければならない。そうしなければ、この作品の魅力は恐らくわからない。文庫化されているから少しでも興味があれば読まれたい。コーヒー1杯の価格でできるスペインツアーは、普通のスペイン観光よりは、少々影が濃い。

 

最近読んだ本

バルセローナにて (集英社文庫)
堀田 善衞 著

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