Bonne journée, Photo

Cafe Everest

201610-411

夕暮れの重いバッグを肩にかけ直しながら、
疲れた足を放り出し、
いつものカフェのサインにぼんやりと目をやり、
会議のやりとりを思い返していた。

プロジェクターが映し出す光の紋様はただオレンジに輝くだけで、意味のある解を伝えはしなかった。たったひとつ意味のある言葉といえば、「もう一度考え直そうか」という俯いたしゃがれ声だけだった。どんな価値があるのか分からないとか、言葉の意味がわからないとか、そんな言葉が小さな部屋の中でぶつかり、やがて過ぎた時間を確かめるためだけに議事録が発行された。
遠いカフェのサインボードは、プロジェクターと同じオレンジの光を反射していた。欺瞞と傲慢の間で言葉は色彩を失い、やがてこぼれ落ちた。

「ここは入り口ではありません。あなたはここから入りません。」

カフェ・エヴェレストという名の店のオレンジ色に照らされたガラスのドアに鍵は見当たらなかったが、それが開くことはなかった。

「このドアは開きません。朝日の照らす側からお入りください。運を忘れずに。」

二重になった奥のガラスドアには、ご丁寧にもさらに張り紙があった。眺めるドアは、どこかで今日を拒絶しているように見えた。
いつも何かが起こり、いつも何事もなかったように夕暮れが訪れる。会議の議事録は、恐らくは二度と開かれない。ただの冷え切ったデータ。昨日と今日の違いは単にファイルがひとつ増えたことだけに違いない。

「上まで階段を登るとあなたは入り口を見つけます。あなたは入りません。」

前にあった張り紙はいつか分からなくなっていた。バッグを肩にかけ直し、少し汗をかいたシャツの襟を整える。オレンジ色の光を反射するドアの向こうには、確かにコンクリートの階段があった。毎日前を通り毎日見ていたドアは、一度も開けようとしたことなどなかったと気づいた。
階段の一番下には年端のいかない少年がひとり、アイスクリームを食べながら誰かを待っていた。夕暮れと言うには少し遅くなった一日の終わりに、オレンジ色の明かりに照らされたドアと冷たい青の階段との隙間から腕に巻きついた時計とは違う時間が浸み出し、拒絶された何かがわずかに動き出したように思えた。階段を見上げると、ハロウィンの飾りが風に揺れた。

起こってしまったことも
もう忘れそうなことも
これからおこりそうなことも
すべてバッグの中にしまいこんで持ち歩いていた。


特に何かモチーフがあるわけでも思うところがあるわけでもない。どこかでひっかかった何かが、単に時々湧き出してくる。たまにお付き合いいただければ幸いである。

Here’s a prose poem in Japanese. Here I tried to write down a soul in the middle of glorious future and the vain hope.

201610-412

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4 thoughts on “Cafe Everest”

    1. 本当はもっと執筆に時間を割きたいのですが、いつも書くのは混雑した通勤電車の中。少しでも良いところを見つけていただいたなら、とても嬉しく思います。こちらこそ感謝。

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